負け犬の傷に、キス
「あいつはまだ自分で自分を“負け犬”って思ってっし」
くだらないと言わんばかりに奥歯の力が増す。
秒で水の固まりは干からびた。
「その“負け犬”って、あたしよくわからないんですよね。うわさは知ってますけど……。希勇さんのどこが“負け犬”なんですか?」
「下っ端のヤツから聞いてない?」
「い、いえ、何も……」
「そっか。……そうだよね。総長の蔑称の由来なんか誰だって話したくないか」
シロップを入れていないカフェオレを一口飲み、薫は顔をしかめた。
「下っ端の方たちが希勇さんを見たり、希勇さんのことを話したりするとき、いつもふくざつそうです。ふまんがあるような、それでいてかなしそうな感じ……。希勇さんが“負け犬”だからですか?」
「キユーに不満があるのは本当だよ」
「だが“負け犬”が総長だからじゃねぇ。総長が“負け犬”のフリをしてっからだ」
望空ちゃんは大きく首をひねった。
「本気を出せば、キユーは最強なんだよ。双雷で一番強くて、下っ端たちも慕ってるのに……本人はそれを自覚してない」
「“負け犬”でいいって思ってやがるんだよ。あのバカが」
本人よりも薫と柏は悔しがっていた。
ほんとバカ、大バカだ、とバカを連呼する。