負け犬の傷に、キス
「どうして希勇さんは“負け犬”のフリなんか……」
「きっかけは1年と数か月くらい前かな……10代目から役目を受け継ぐ、ちょっと前。
キユーがケンカをふっかけられて、いつも通り返り討ちにして、いつも通りりちぎに救急車まで呼んだんだ」
「敵に情けかけてんじゃねぇよ、バカヤロー」
たぶんこれで柏は20回くらい「バカ」と言った。
薫と合わせれば50回を軽く超えてそう。
愛ある悪口。
だけど本当に思ってること。
「だけどいつも通りじゃなかったのはそのあと。敵の1人が重症で、何針も縫ったって風のうわさで聞いちゃったんだ。
それまで100倍返しくらいフツーにしちゃってたから、キユー自身も自分の力を恐れてたこともあった……けど、それほど傷つけたのはそのときが初めてだった」
「あんなん正当防衛だろ。ふっかけてきたヤツらがナイフやら銃やら使ってきたせいだっつのに、希勇は自分が悪ぃっつーばっかで耳を貸さねぇ」
貧乏ゆすりをする柏の足を、薫はペチンとはたく。
「キユーはそれ以来、本気を出さなくなった。傷つけるのが怖くなっちゃったんだよ」
「11代目総長になっても弱ぶったまま。今もずっとだぜ? 引きずりすぎなんだよ」