負け犬の傷に、キス
「自分のことだと逃げてばっかのくせして」
「あはは、ごめん」
「笑うな。謝んな」
毛づくろいするみたいに柏はくしゃくしゃと長い前髪を乱す。
自分のことじゃないからこそ
軽々と逃げられないんだよ。
「しいて双雷のことを考えるとしたら……」
「しいてって。そこを最初に考えてよ」
「薬物使用者を野放しにしておくのは、俺たち双雷にとってもよくないことだろ?」
「まあそうだな。そこらで暴れられたらじゃまくせぇし、あのゾンビみてぇの気味悪ぃし」
「だろ!? ならここは協力してパパパッと片付けたほうがいいと思うんだよ!」
「……それあと付けでしょ」
薫の手厳しい一言にギクリとする。
そ、そうだけど! あと付けでも問題ないだろ!
実際いいことだらけなんだし!
薬物使用者を相手にするだけでも厄介なんだから、あっちが束になってかかってくるなら、こっちも手を組んだほうが味方が多くて心強いよ!!
「……そちらに、」
安定しない思春期の声音。
博くんの表情は不可解そうに歪んでる。
「お兄さん方にメリットがあるにしろ、やはり同盟は大げさではありませんか?」
「それならまた交換条件でもいいじゃねぇか」
ユキの眼差しはもう冷たくない。
かといって温かくもない。
俺以外みんな、落ち着かないみたいだ。