負け犬の傷に、キス
○境界
「お姉さんこっち!!」
繁華街の路地を抜け、住宅街を突っ走る。
小学生の女の子は背後を気にしながらも、わたしのスピードに合わせてくれていた。
この子は、たしか……昨日歩道橋から転落した子だ。
小さな手。
小さな体。
それらは昨日と変わってないのに、弱々しく泣いて打ち震えていた姿とはまるで違う。
強く、たくましく
わたしを守ろうとしてくれてる。
さっきの男の子だって……。
すぐ昨日の人だと気づいた。
右の足首が完治していないことも。
それでも昨日女の子を助けたみたいに、さも当たり前のようにかばってくれた。
ナンパしてきた人たちからは
“負け犬”と見下されていたけれど
わたしにとっては
ヒーローそのものだった。
「お姉さんの家はどこですか? 送りますよ!」
「そ、そこまでしてもらわなくても……!」
「ダメです! お兄さんが足止めしてくれてるとはいえ、いつあいつらが追ってくるかわからないんですから」
この子は本当に小学生なのだろうか。
かっこよくて、とても大人びて見える。
「あ……ありがとう」
お言葉に甘えると、女の子は顔だけこちらに向けてあどけなく笑った。