負け犬の傷に、キス
●本気
双雷11代目総長。
その肩書きにまったくなじめなかったころ。
巡回していた繁華街でたまたま出くわした。
俺にケンカを売ってきた一人。
――俺が傷つけすぎた、弱い男。
男は、コンビニ袋をぶらさげた右手をズボンのポッケにつっこみ、ボロいサンダルをぺたぺた鳴らし歩いていた。
頭と足に巻かれた包帯に、嫌でも目がいく。
無事に退院したんだ、という安堵と
あの包帯は俺のせいだ、という罪悪感で
心臓をえぐられた。
男もこちらに気づいた。
真っ青になった顔面がひくひく震えてる。
俺だって怖かった。
この場から逃げ出したかった。
『ご、ごめん……』
口からすべった3文字。
無意識だった。
男は目を見開いた。
恐怖一色だった形相が、みるみるひん曲がっていく。
嘲笑っていた。
鼻を鳴らし、わざと俺の肩にぶつかって通り過ぎていく。
『負け犬が』
すれ違いざま、ボソリとささやかれた。
蔑んだ声だった。
真っ青になっていたのは俺のほうだった。
瞼の裏に朱色がにじむ。
拭っても拭っても消えない。
傷が、癒えない。
残された“痕”を誰が治してくれるの。