負け犬の傷に、キス



スプリングを軋ませながら上半身を起こす。


休んだ気分じゃなくても、睡魔はどこかへ行ったみたいだから結果オーライ。

とりあえずシャワー浴びたいな。




「夕日ちゃん、起こしてくれてありが」




とう、と。

続けるはずだった声を喉奥に流す。



不意に夕日ちゃんが表情をやわく歪ませて、俺の頬にそうっと手のひらを添わせたから。




「ゆ、夕日ちゃん……!?」




え、なに!? どうしたの!?

びっくりとときめきでドキドキしちゃうんですが。



ゆっくり夕日ちゃんの顔が近づいてくる。



えっ!


これって。

これって……!!



ドキドキが最高潮。

心臓がバクバクだよ!




目をつむった瞬間、ふわっと、甘くさわやかな香りがした。



乾いた唇に柔らかな感触が一瞬。

チュ、とついばんで、もう一度。


うすい瞼の上にもキスを落とされた。



香りが離れたと思って目を開けると、ぎゅうっと抱きしめられた。




「無理しないでね」




それは俺が『大丈夫』と言い聞かせたこと?

それともこのあとのこと?


どっちもかもな。




「うん……が、頑張るよ」


「本当は頑張らないでほしいよ……っ」


「ええっ、頑張らせてよ」




笑いながら抱きしめ返す。

夕日ちゃんは俺の首筋に顔をうずめた。


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