負け犬の傷に、キス



わたしの道案内にしたがって逃げていく。

何ごともなくたどり着くと、女の子は口をあんぐり開けた。




「え……家って、ここですか……!?」




正面にそびえ立つのは、真っ白な建物。


この街で一番大きい総合病院

――津上(ツカミ)病院。




「家、ではないんだけど……ここに親が勤めてて、少し用があるの」


「あ……そうなんですか」


「家は病院の近くだから、ひとりでも大丈夫だよ。ここまで本当にありがとう」


「いえ! ぶじに守れてよかったです!」




びしっと敬礼をした女の子は、照れたように表情を崩した。

軽く頭を下げると、男の子のいる繁華街のほうへ戻っていく。


男の子も女の子もケガしないといいな。




「……あっ!」




そうだ、わたしちゃんと男の子にお礼言えてない!



せっかく守ってくれたのに……。

次、会ったら言わないと。


……次はいつ会えるかな。



内心落ち込みつつも病院内に入る。


カウンターでお母さんを呼んでもらった。




夕日(ユウヒ)!」


「あっ、お母さん」




白衣をひるがえしてやって来たお母さんに、忘れ物を届ける。


大事な資料らしい。


お母さんが忘れ物なんて珍しい。

最近忙しくしていたせいかもしれない。




「夕日ありがとう。助かるわ」


「どういたしまして」


「学校はどうだった? テストだったんでしょ? そんなときに忘れ物を頼んでごめんなさいね」


「ううん、大丈夫。テストも全部解けたし」


「そう、すごいわね。よくできた娘を持って幸せだわ」



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