負け犬の傷に、キス
「そろそろ行くよ」
薫の呼びかけに、なごり惜しげに夕日ちゃんから離れた。
お守りをズボンのポケットにしまう。
「希勇くん!」
「希勇さん」
「「総長!」」
夕日ちゃんと望空ちゃん、下っ端たちまでエールを送ってくれた。
びっくりした。
絶対泣かせに来てる。
左右から背中をバシッと叩かれた。
薫と柏のしわざだ。
おかげで気合いが入った。
「行ってきます!」
豪華に装飾された扉を開き、洋館をあとにする。
建物前には3台のバイクが用意されていた。
薫の大型バイクのうしろに俺が
ユキの黒のバイクのうしろには博くんが乗り込む。
けたたましくエンジン音をとどろかせながら走らせていく。
たまり場とは反対方向。
隣町との間にある、廃れたビル群のひとつ。
中小企業が昔使っていたとされる、3階建ての鉄筋コンクリート造りのビル。
ここなら人気もなく、近所迷惑を考えずに、思うぞんぶん戦える。
廃ビルの周りには、何台ものバイクが乱雑に置かれていた。
ビルの中から鈍い音と叫び声が聞こえてくる。
「おーおー。おっぱじめてんな」
「早く混ざりてぇ」
柏は八重歯を、ユキは竹刀を光らせる。
血がたぎってるな。