負け犬の傷に、キス
よくできた、娘……。
本当に?
ただのいい子ちゃんでいようとしてるだけじゃなくて?
だってね、さっきまで怖くて仕方なくて、ただ立ち尽くしてた。
助けてくれた男の子に感謝も伝えられなかった。
何にもできなかったの。
「夕日がいるならこの病院も安泰ね」
津上 夕日。
それがわたしの名前。
この津上病院の院長のお父さんと、精神科の医師のお母さん。
6歳下の弟、宵より長女のわたしを、両親が津上病院の跡を継ぐ立場として期待しているのを、痛いくらい感じては努力せざるを得なかった。
こうやって親の言うことを聞いて
名門の白薔薇学園の制服を着るようになってもう2年。
期待に応えるのは苦痛じゃない。
学校の授業や医学を学ぶのは、タメになるし面白い。
だけど、ときおり無性に
違う世界を見てみたくなる。
例えば、そう……
あの男の子のような、真っ直ぐすぎるほどの世界。
「じゃあ仕事戻るわね。あ、宵の宿題見てあげてくれる?」
「わかった。お仕事頑張ってね」
お母さんに笑顔で手を振る。
お母さんが見えなくなってこっそり息を吐いた。
わたし……本当にこのままでいいのかな。