負け犬の傷に、キス
これで仕かけたトラップは全て使い切った……かな。
なかなかいい仕事したな。トラップが。
あとどれくらい残ってるんだろう。
逃げてる最中に、体力が尽きて動けなくなっていたり殺られたりした下っ端を何人も見かけた。
やはり“薬”が相手だと力だけでねじ伏せられない。
長期戦ではこちらが不利。
こちらの人数が多いうちに捕獲しないと!
敵の数を確かめようとしたら、視界の隅に何かがよぎった。
「あっ、ぶな……」
身を引かなければ何かが当たってた。
ギリギリセーフ。
前髪をかすったのは……木刀?
「何、す……」
「“負け犬”じゃねぇか」
「……っ、な、」
木刀を舐めた男の
小さな黒目に映る俺は
きっとひどくこっけいなんだろう。
「久しぶりだなぁ?」
俺は、この男を、知っている。
「あのとき以来かぁ?」
いやに間延びした口調。
浮かび上がる頬骨と、欠けた前歯。
ずいぶん変貌していた。
あのとき――繁華街ではち合わせしたときは、健康的な体つきに包帯が巻かれていた。
おぼえてる。よく、おぼえてるよ。
忘れられるはずがない。
「な、んで、ここに……」
落ち着け、自分。
……ムリだよ。
うろたえるな。
……ムリだって!
だって。
だって、この男は。