負け犬の傷に、キス



――バシッ。




空虚な音が鳴った。



何が起こってるのかすぐに理解できなかった。



まばたきをしても目をこすってみても、やっぱりそう。

ひとりの下っ端が俺の代わりに竹刀を受け止めていた。




「ど、して……」


「総長!!」


「は、はひっ!」




うまく理解できずにいる脳が、下っ端の大声で強制的に働かされる。


お、怒ってる……よな?

下っ端に説教される!?




「なんでやり返さないんすか!!」


「え……でも……」


「やり返さないならせめてかわしてくださいよ!!」




総長が下っ端に叱られるってどうよ。
戦場でダメ出しされるってどうよ。


これも俺のせいだよな。ごめんなさい。



下っ端に真っ向から責められたのは初めてだ。



いつもの不満げな眼差しもきつかったけど、こうして言葉にされるとけっこうクるものがあるなぁ……。


反論のはの字も出てこない。




「俺は、俺たちは、総長を……!」


「こいつぁ“負け犬”だぜぇ? やり返せるわけ……」




下っ端の声をさえぎった男を、




「違ぇよ!!」




さらに下っ端がさえぎった。

応酬が激しい。


下っ端は敵を睨んで怒鳴り散らす。




「総長は“負け犬”なんかじゃねぇ!!」




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