負け犬の傷に、キス
驚いた。
たぶん……いや確実に俺が一番驚いてる。
下っ端は、今、なんて言った……?
「現実見ろよぉ、なぁ? どう見ても負け犬だろーがよぉ」
「違う」
「こんな弱っちぃヤツの下によくいるなぁ? 同情するぜ」
「違ぇっつってんだろ!?」
下っ端はわしづかみにしていた木刀を勢いよく振り払った。
「本当の総長は、“負け犬”でも弱くもねぇんだよ!!」
弱いよ。すごく弱い。
逃げてばっかりなんだよ?
俺なんか“負け犬”でいい。
なのに、どうして。
下っ端は……仲間は泣くように怒ってるんだ。
「そうだ!!」
「あ!?」
「総長を侮辱すんな!!」
またひとり、下っ端が男の背後から忍び寄ってきた。
男の両肩に腕を回し、身柄を押さえる。
「負け犬はどっちだ!!」
「俺たちの総長は最強だ!!」
ふたりの熱が痛いくらい伝わってくる。
……ふたりだけじゃない。
あちこちから注がれてる。
周囲を見渡せば、意識のある下っ端全員が鋭くも熱い視線を送っていた。
みんな、俺を信じてくれてたんだ。
俺がにぶすぎただけで、ずっと、ずっと。