負け犬の傷に、キス



「チッ。うっせぇなぁ!」




逆上した男が暴れ出す。


よろけた下っ端をもう1人の下っ端のほうへ蹴ると、木刀で空を切った。



あっ!
ふたりとも受け身から立て直せてない。

あのままじゃ急所をやられる……!!



俺はかばわれたままでいいのか?



自然と地面につけていたひざを持ち上げていた。



指を折り曲げて手のひらに爪を立てる。

人差し指の第二関節に親指の力を乗せた。



キスの感触がにじむ瞼の裏が、ポツポツと朱色で汚れていく。



傷つけるのは怖い。

けど。


……けど!



ここで守れなかったら一生後悔する。



負わせたその傷ごと苦しむから。


だからどうか……俺を赦さないで。




俺の握り拳が男のみぞおちに深くめりこんだ。

そのまま内臓をぶちまけるように拳を押し出していく。



「ぐほっ……!」



胃液を吐いた男は、力の入らないひざを折る。


木刀を支えにして数秒。

力尽きて地面に突っ伏した。



なんてあっけない。



震えの止まらない拳を一度ほどいて、また固める。


熱を帯びた痛みがじりじりと走る。

その感覚がなんだかなつかしい。



「そ、総長……」

「今、倒し……」



目を点にしてる下っ端に、痛みをこらえながら微笑んだ。


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