負け犬の傷に、キス
謎の多い元凶、“薬”の売人。
一体どんな人なんだろう。
「なら売人のこと教えてくれない?」
薫のわざとらしい猫なで声。
寒気がする。
あ、あの敵の男もぶるっと身震いした。ダヨナ。
「……あ、っ……」
恐怖で開きかけた血だらけの唇はすぐさま閉ざされた。
「て、敵に教えられっか。俺らはあの人の味方な」
「つまんな」
「んだ……ッァガ!?」
壁につけられていた薫の足が男のこめかみに直撃した。
流れるような攻撃!
せめて最後まで主張聞いてやれよ……。
「他のヤツにも聞いてみる?」
「はい一応。でも……」
「あんまり見込みなさそうだよね。はーあ、だっる」
両手をはたいて汚れを落としながら、博くんはフロアを見渡す。
他にも意識の戻った標的はいたが、敗北しても俺たちを目の敵にしていた。あの様子では情報を渡してはくれないだろう。
白い光が差し込んだ。
あまりに痛々しい朝。
それでも……戦いの夜は超えたんだな。
全身の力が抜けていく。
ちょっと疲れたな。
ズボンのポケットからお守りを取り出した。
真っ赤な花びら5枚。
どこも傷ついてない。
「よかった……」
栞の表面を指先でなぞり、そっとキスをする。
ほんの少し目頭が熱くなった。