負け犬の傷に、キス
○夢現
土曜日の夜は長すぎる。
冷たかったイスの温度を感じなくなった。
2時間前に望空ちゃんが用意してくれたアイスティーは、テーブルの上でポツンと飲まれるのを待ち焦がれている。
グラスの濡れた側面をぼんやり見つめてはいても、手を伸ばしはしなかった。
大きな広間に、たった数人。
わたしの真向かいに座ってる望空ちゃんと、扉付近に立ってる下っ端の人たち。
始めは談笑していたけれど、全員だんだん口数が減っていった。
チクタク、チクタク。
時計の針が規則的に音を立てる。
1週間前、希勇くんから今日の作戦を聞いたとき
それから今日希勇くんを起こしたとき
『行ってきます!』と戦いに行ったとき
不安でたまらなかった。
行かないで。そうダダをこねたかった。
保健室で辻先生に内容をぼかしながら相談したら、
『お守りを渡してみたらどう? 気休めかもしれないけれど何かの力にはなるわよ。想いを込めたらその分だけ、きっとね』
と、はげましながらアドバイスをくださった。
その助言に沿って、栞を渡してみたけど……。
それだけ。
それだけなんだ。
わたしにできることはその程度。
あとは祈るだけ。
悔しいよ。
もどかしいよ。
ちっとも眠くならないくらい、胸がね、痛いの。