負け犬の傷に、キス


熱が落ち着いてきてふと隣を一瞥してみると
切なそうに、恋しそうに、指輪を眺めていた。


あ……。

わたし、なんて無神経なこと。




『津上さんはあたしみたいな大人にならないでね。後悔し続けてほしくないの』




辻先生は今でも苦しんでいるのに。



謝るのも違う気がして、開閉させて渇いた口の中にアイスティーを大量に流し込む。

甘さが今は痛い。




「つ、辻先生、わたし、」




なあに? と辻先生は首を傾げた。

さらりとストレートの髪が肩からすべり、花の香りが舞う。




「が、頑張りたいこと、頑張れたんです!」


「本当? よかったわね」


「ずっとうまくいかなくて、逃げたりくじけたりもしたけど……さっきやっと伝えたかったことを全部伝えられたんです」


「津上さんが頑張り続けた結果ね。すごいわ」


「まだ相手にちゃんと届いたかわかりませんが、それでも最後まで立ち向かえました。頑張り続けたら、本当に意味がありました」




全部が全部報われるわけじゃない。

頑張るのは大変で難しい。


だけど少しでも変えられるから。



だから……辻先生も。



後悔してるなら頑張ってみませんか。


わたしなんかでよければ寄り添います。


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