負け犬の傷に、キス
『さもなくば……』
その続きを考えるだけで、恐怖と憤怒でどうにかなりそう。
なんでだよ。
やめてくれよ。
夕日ちゃんを巻き込むなよ。
いつかこんなことが起こるんじゃないかと思っていたけど、いざそうなると冷静になれない。
フツフツといろんな感情が沸き上がってごちゃまぜになる。
殺気立って仕方ない。
夕日ちゃんを助けたい。守りたい。
傷を負う前に、早く、今すぐ。
さもなくば。
それはこっちのセリフだ。
「内容が抽象的だよね。手を引けって、具体的に何をしてほしいんだか」
「……俺、電話かけてみる」
「えっ」
癇に障るメッセージを見返す薫から携帯を取った。
「ちょっと待ってキユー。まだ送信者も目的もわかってないんだから慎重に……」
そうだよ。何もわからない。
だから殺気の矛先が見当たらなくて、焦って、じっとしていられないんだ。
夕日ちゃんの番号につなぐと、コール音が3回続く。
『クサカベキユウ……“負け犬”カ?』
耳を打ったのは、冷たい機械音。
夕日ちゃんが出てくれたら……なんて、実はちょこっと期待してた。あっけなくくだかれたけど。現実逃避だった。
わざわざ変声してるこの人は、一体誰なんだ。
「夕日ちゃんをどうする気だ!」
『安心シロ、眠ッテイルダケ』
「安心? できるわけ……!」
『返シテホシケレバ、薬物カラ手ヲ引ケ。ソウ送ッタハズダ』