負け犬の傷に、キス
う、わ。声、裏返った。恥ずかしい。
茶色い瞳にわたしが映る。
それだけでドキドキする。
「あ! ハンカチの子!」
気づいてもらえた。よかったぁ。
びっくりしてる彼に、先ほど買ったばかりのクッキーを差し出した。
「き、昨日は助けてくださって、あ、ありがとうございました!」
「え!? お、俺、そんな大したことは……」
「いえ……いえ! 守ってくださって、本当に、助かったんです。嬉しかったんです。だから……その……き、昨日お礼を言えなかったので……。よかったら、これ……!」
「そのためにわざわざ?」
クッキーを持つ手が震える。
図々しかった?
クッキー苦手だった?
ネガティブ思考に埋もれて、無意識にうつむいていた。
「……ありがとう」
ふわりと手が軽くなった。
クッキー受け取った男の子は、昨日みたく優しく微笑んでいた。
そう。この笑顔のおかげで
わたしは救われたの。
「逃げたあと何もなかったですか?」
「は、はい。無事に家に帰れました」
「そっか……。ちゃんと守れたようでよかったです。このハンカチもありがとうございました」
カバンから取り出された、ピンク色の小花柄のハンカチ。
シワひとつない。
丁寧にアイロンをかけてくれたのだろうか。