負け犬の傷に、キス


だけど会いたかったんだ。


そう思って来てしまったわたしは、本当にバカなのかな。


自分勝手すぎた?

男の子にとって迷惑だった?




「……ご、ごめんなさい……」




くしゃ、とワンピースの裾を握り締めた。


謝らなきゃいけないなら、会いに来ないほうがよかったかな……?




「薫、きつく言いすぎ」


「キユーはのんきすぎだよ」


「この子はわざわざお礼を言いに来てくれただけだろ。俺もハンカチ返せてよかったし、いいんだよ」


「これだからキユーは……。本当に狙われたらどうするのさ」


「そ、それは……が、頑張るよ!」


「うわ、テキトー。なんて心もとない……」


「うっ、うるさいな! 薫も頑張れよ!」




長身の男の子の目がだんだん柔らかくなっていく。


仲いいんだなぁ。

うらやましい。



居心地悪く身を縮めれば、昨日の男の子がわたしの顔を覗き込んできた。


申し訳なさそうに声音を落とす。




「すみません、こいつがきついこと言って」


「い、いえ……」


「でもまた狙われたら危険なんで、気をつけて帰ってくださいね! クッキーありがとうございました!」




長身の男の子をなだめながら去っていく。


行っちゃう。

せっかく会えたのに。



「あ! あのっ!!」



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