負け犬の傷に、キス
俺と夕日ちゃんは振り返らなかった。
カバンを回収し、開きっ放しの出口をくぐる。
「帰ろうか」
外で待っていたみんなに、やせるなく笑いかける。
みんなは複雑そうに顔を見合わせて頷いた。
エレベーターに乗ると、夕日ちゃんは俺たちを順々に見据えた。
「助けに来てくれてありがとうございます」
その気持ちを素直に受け取れない。
たぶんみんなも同じだった。
「……首、痛む?」
「ちょっとだけ」
俺が謝ろうとしたら、でも、と遮られた。
「すぐ、治るから」
血の出なくなった首筋の傷の表面に触れながら目元にしわを寄せた。
そんな夕日ちゃんに、薫は絆創膏を差し出す。
「ん」
「……え」
「一応貼っとけば?」
「あ、あり」
「礼はいらないから」
薫は夕日ちゃんのほうを見向きもしない。
これがツンデレというやつか。
そういうとこ不器用だよな。
俺と柏はふっと笑みをこぼす。
夕日ちゃんはありがたく絆創膏を受け取った。
俺がそれを貼ってあげると、ちょうどエレベーターが1階に到着した。