負け犬の傷に、キス
○深愛
「はい、お弁当」
8月最初の土曜日。
病院の受付横でお母さんに小さめのトートバックを渡した。
「夕日ありがとう。助かるわ」
バックは2つ。
両親そろって忘れるのはめずらしい。
お母さんはよくうっかりしちゃうけど。
それほど仕事が忙しいんだろうな。
また宵とゼリー作ってあげようかな。
「でもごめんなさいね。今日デートだったでしょ?」
「大丈夫だよ。時間はまだあるから」
待ち合わせ時間まであと30分以上ある。
『家まで迎えに行くよ』
って、希勇くんは言ってくれた。
優しすぎる。好き。
でもこの忘れ物を届けなきゃだったから、繁華街で待ち合わせになった。
2回目のデート。
今回はユキさん主演の新選組を題材にした舞台を観劇したあと、あの古着屋さんとカフェに行く予定。
デートするの久しぶりだからドキドキする。
「お母さん、わたし変じゃないかな?」
女の子らしいひらひらのワンピース。
首元に水玉のスカーフ。
ヘアアレンジも頑張っておだんごを作ってみた。
家の鏡はちょっとよく見えるようになってる気がしてあんまり自信が持てない。