負け犬の傷に、キス



「津上さんのほうがとても優しいですよ。見ず知らずの俺を手当てしてくれたし」


「そ、それは手当てとか得意……というかその……わたしの親が医者で、それで……」


「え! そうなんですか!? ……あっ、もしかして津上って……」




草壁くんが病院のある方向を一瞥する。


ぎこちなくコクンと頷いた。





「それじゃあ津上さんはあの病院を継ぐんですか?」


「……そう、言われてます」


「うわあ、すごいな……! 白薔薇の生徒なのもなっとくです」


「そんな、こと……」




恵まれた家。
用意されてるエリート街道。

努力することを疑わないで進む。


それは本当にすごいこと?


信じて進んだら、わたしは幸せになれる?



決して嫌じゃないのに、たまに悩んで立ち止まってる時点で、きっと何もすごくなんかない。




「そういえばおいくつですか?」


「え……」




話題が逸れた。

逸らしてくれたんだ。


ほら。そういうところだよ。


名前を知り合って数分のわたしですら、草壁くんのいいところをたくさん見つけたよ。




「俺は1年、16です」


「わ、わたしは2年、17歳です」


「いっこ上……薫と同じですね。敬語使っててよかったぁ」



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