負け犬の傷に、キス
野次馬の誰かが呼んだのかも。
警察にこの件を聞かれるのは面倒だ。
「キユー!」
「行くぞ!」
「うん! 津上さんも、ほら!」
「え……!?」
「逃げるよ!」
津上さんの手を引いて、クレープ屋の前を通り過ぎる。
繁華街の大通りから細い路地に入り、走っていく。
灰色の厚い雲からポツポツと降り出した雨は、しだいに激しくなっていった。
最悪だ。
傘持ってきてないよ。
逃げてる最中に本降りになるなんて運がなさすぎる。
「どこかで雨宿りしよ!」
そう言いながら津上さんをそばに寄せ、ブレザーの中に入れてあげる。
あんまり役に立たないだろうけど無いよりマシ。
今だけブレザーが屋根代わりだ。
赤いサイレンが遠のいていく。
俺たちを追ってきてはいないみたいだ。
結局、ポニーテールの男も中学生も見つからなかったな……。
路地を抜け繁華街を過ぎると、小さな公園があった。
子どもの姿はない。
小さな足跡だけがたくさんついた濡れた地面に踏み入れる。
屋根のあるベンチに腰を下ろし、ようやく息をついた。