負け犬の傷に、キス


柏にも回そうとしたけど……


ニット帽を取り、ブルブルと頭を左右に振って雨粒を飛ばしていたからやめた。

本物の犬みたいだな。



ブレザーを着ていなかった薫は、カーディガンが濡れて寒そう。




「あの……ありがとうございました。男の人たちからも、雨からも守ってくださって」




薫にハンドタオルを渡すと、津上さんは深く一礼した。




「よく逃げなかったね。怖くないの?」




まったく薫は、褒めてるんだか皮肉なんだか……。

そのハンドタオル、津上さんのなんだぞ?




「あの男の人たちは怖かったですけど、わたしを守ってくれた草壁くんたちを怖いとは思えませんよ」




そうだ。津上さんは逃げるどころか俺を思いやってくれた。



おとといは今日みたいにやり合うんじゃなく、一方的な攻撃をかわすだけだった。


今日は前とはちがう迫力に戦慄してもおかしくなかったのに。




「肝が据わってるんだね〜」




棒読みだな、薫……。




「くしゅっ」




くしゃみもしてる。


カーディガンを着たままだからだよ。

風邪引かなきゃいいけど……。




「……えと、カオルさん、でしたよね?」


「なに」




カーディガンを脱いで鼻先をこする薫のそっけなさに、津上さんはビクリとしてしりごんでしまう。


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