負け犬の傷に、キス
また薫は……。
俺が注意する前に、津上さんがためらいがちに口を開いた。
「そ、その……ケガ、してるんですか?」
心配そうに見据えていた。
薫の湿ったシャツから透けて見える、胸元の包帯を。
「……ああ、これ? まあ、ちょっとね」
「大丈夫ですか? 走って傷に障ったり……」
「ダイジョーブ。そういう傷じゃないから」
「なら、いいんですが……」
平然とする薫に、俺のカーディガンをかけてあげる。
風邪引いちゃまずいから。
一笑するだけの俺を横目に、
「どーも」
そっと袖に腕を通した。
「皆さんお強いのに、やっぱりそういうケガも負われるんですね」
「そりゃあな。傷つくときは傷つくだろ」
「……ぼ、暴走族って大変なんですね」
「大変? 別に大変じゃねぇよ。いろんなヤツがいるからな。おもしれーよ」
柏は喉を鳴らして笑う。
それを合図にしたように雨が弱まってきた。