負け犬の傷に、キス
*
雨が止んできたころ。
パトカーが到着した繁華街は、雨のせいもあってか先ほどより人気が少なくなっていた。
気を失ってる男3人の様子を調べている警察官を
薄暗い路地からうかがう怪しい影がひとつ。
「ひーふーみー……2人逃げたがしゃーねぇか」
とある男は警察官の動向を気にしながら、110番の履歴の残る携帯を操作する。
「隙を見て逃げられたときは焦ったが、まさか今日になって他のヤツがとっ捕まえてくれるとはな」
携帯内のフォルダには、双雷の3匹の犬が写った写真が。
逃げる直前に撮られたらしい。
“負け犬”の姿をアップにすると、目を瞠った。
「ん? こいつ、たしか……」
見覚えのある顔に、ニヤリと口角を上げる。
ふと路地の奥から、男と女の2人組がタバコの吸い殻を捨てて歩いてきた。
警察官が何かに勘づいたことを確認したとある男は、携帯を耳に当て、2人組の男女とすれ違う。
「あー、わりぃ。そうそう、そんでさ、また出たんだってよ」
わざとらしくひそめた声。
ここでは反響して、他人にも聞こえてしまう。
「あいつらだよ。
――“名無し”っつったっけ?」
うしろでひとつに束ねた長い髪を揺らして、愉快そうに路地の奥へと進んでいく。
語りかける携帯には誰もつながっていないというのに。