負け犬の傷に、キス
Ⅱ : 魚心あれば水心
○本音
この間の雨がうそみたい。
先週のにわか雨から快晴が続いてる。
だけど
ここ最近のわたしの気分は
ちっとも晴れない。
「ねぇ、本当なのかな」
「さあ? でもさ、見たって子けっこういるらしいじゃん」
「へー、意外」
「そういう感じの子には見えないけど」
「やっぱ人って見た目じゃねぇな」
コソコソ、コソコソ。
わたしをチラチラ見ながらうわさ話をしている。
わたしに聞こえるか聞こえないかくらいの声量でも、せまい教室でこれだけクラスメイトが盛り上がっていたら、いやでも耳に入ってしまう。
ちょうど1週間前――あのにわか雨の次の日からだ。
初めは違和感も持たせないくらいちっぽけだったうわさが、またたく間に広がっていった。
やだな。
学校ってこんなに居心地悪かったっけ。
息苦しいよ。
チャイムが鳴って、好奇と幻滅の視線から解放される。
授業が始まる。
これが午前中最後の授業。
終わったら昼休みだ。
保健室に行こう。
今日は当番じゃないけど、ここにいたくない。
白薔薇学園の授業はレベルが高く、難しいことで有名で、いつもなら脳内に内容をインプットしてる間に気づいたら終わってしまう。
だけど今日はやけに長く感じた。