負け犬の傷に、キス
――キーンコーンカーンコーン。
無機質な合図で、シャーペンを置いた。
手のひらが汗ばんでる。
昼休みになり教室がにぎやかになる。
「ねね、ちょっと聞いてみてよ」
「えー、そっちが行ってよ」
「ムリムリ! 怖いもん!」
あ、また。
わたしの話題だ。
背中に突き刺さる視線と小さめな声に、冷や汗をかいた。
「だって、あの双雷と仲いいんでしょ?」
1週間前の繁華街での騒ぎを、誰かが目撃してたんだ。
それがうわさになって、それで……。
ドクンッ。
重たく脈を打つ。
カオルさんのチクチクした言い方より、こうやって周りから悪く言われるほうがよっぽど胸が痛む。
「目が合うだけでキレられそう!」
「でもでも、うわさ流れる前はふつうに話してたじゃん?」
「いい子だよね。かわいいし」
「けど暴走族と関わってるんでしょ?」
「津上さんも双雷に入ってたりして?」
「ちょっと声かけづらいよなー」
地元から2駅離れた場所にある学校に、様々なところから通ってる生徒たち。
過半数の人が双雷の名前を知っているが、双雷そのものを理解してる人は少ない。
わたしもそうだった。
草壁くんと出会うまで、何もわかってなかった。
世界がちがうことしか知らなかった。