負け犬の傷に、キス


扉から手を離した。


今は保健室に入れない。



壁に寄りかかり、カバンを抱きしめる。


どうしよう……。

もう逃げ場がないよ。




『津上さんも、ほら!』

『え……!?』

『逃げるよ!』




――うん、逃げたい。

ここからできるだけ遠くへ。



カバンから携帯を取り出した。


連絡先を開き『草壁希勇』の文字をなぞる。



ゆっくり指を動かして、電話をかけた。



出てくれるかな。
応えてくれるかな。



コール音が続く。


心臓が締め付けられる。



長い長いコール音がようやく途切れた。




「あ……」


『現在電話に出ることができません』




あー……なんだ、そっか。


そうだよね。

草壁くんも忙しいよね。



耳元から携帯を下ろしていく。


そのまま腕が脱力したように垂れ下がった。




「っ、バカみたい……」




弱いなあ。みっともないなあ。

なに草壁くんにすがろうとしてるんだろう。



最近ちょっと仲良くなれただけなのに。

こんな泣き言、草壁くんだって聞きたくないに決まってる。



あふれてくる涙を必死にこらえる。


こぼれないで。
涙、ひっこめ。


ひっこんでよ……。


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