負け犬の傷に、キス
『なーんて……』
「……たい」
『え?』
「サボりたい。ここから、逃げたい」
今にも泣きそうな、苦しい声。
こんな声でも届いてほしくて、必死に息つぎをした。
サボりの提案が冗談だってわかってる。
だけど本気にしたかった。
わがままだよね。
それでも草壁くんが許してくれるなら、一緒に逃げたかったの。
『……うん、わかった』
草壁くんは聞き返したり冗談っぽくしたりしないで、真っ直ぐに受け入れてくれた。
『初めてちゃんと喋った公園覚えてる?』
「西校の近くの?」
『そう、そこ。そこにいるから、来れる?』
「う、うん、行く! 今すぐ行く!」
『ん、待ってる』
通話が切れると、足が勝手に動き出していた。
初めてのサボりにうしろめたさを感じるけれど、教室にいるときほど心は痛まない。
それよりも早く、早く、草壁くんに会いたくて。
真っ青な空の下をただひたすらに駆けていった。