負け犬の傷に、キス


双雷は悪者なんかじゃない。

そう知ってるからよけいにつらかった。




「そんなの、言わせとけばいいのに」




なんてことなく言う草壁くんは、きっと慣れてるんだろうな。


わたしは慣れたくないよ。


好きな人を悪く言われて

無視なんかしたくない。




「悪者扱いも間違ってないよ。俺たちは不良だからね。白薔薇の人たちからしたら、特にそういう風に思われ……」


「わたしは思わない!」




食い気味に叫べば、茶色い目がわずかに見開かれる。


草壁くんのどこが悪者なの?

そっせんして盾になろうとする人なのに。




「わたしが今まで出会った中で、草壁くんが一番かっこいい!」




だからうわさに心痛くなって

逃げ出した自分に嫌気がさした。



どうしてだろう。泣けてきた。

やだ。泣きたくない。


上を向いたら、茶色い目がキラリと光ったのが見えた。




「草壁くん……?」


「っ、ごめ……。津上さんの言葉が嬉しくて……」




だんだん潤んでいく草壁くんの目元を、そうっと親指でなぞる。



わたしの言葉でよければ何度だって伝えるよ。

草壁くんは最高にかっこいい。



熱っぽくなった顔に添わせたわたしの手のひらを、骨ばった手が包みこんだ。




「ありがとう。津上さんがそう思ってくれるだけで俺は十分だよ」




濡れたまつ毛を伏せて微笑まれ、何も言えなくなる。


十分?
本当に?


わたしはね、草壁くんみたいにかっこよくなりたいよ。



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