負け犬の傷に、キス


昨日?

……昨日かぁ。



一番に思い出すのは、津上さんの楽しげな姿。


怪しそうな人はいなかった気がする。



というかぶっちゃけ、昨日はデートみたいでドキドキしちゃって、特に後半は周囲を注視できなかった。




「ええと……う、うん、見かけなかった。昨日は繁華街行ってぶらぶらしてただけだし……あっ、そうだ! 薫が言ってた古着屋、すごくよかったよ!」


「は?」




うげ、ガチトーン。


なぜ今キレた!?

俺、何か失言した!?




「なんで古着屋寄ってんの?」


「いや、それは、へんそ……う……」


「いつも逃げるとき、古着屋寄ってるわけ?え?」


「……寄ってません」


「昨日のこと洗いざらい吐け」




簡単に昨日“何か”あったことを見抜かれてしまった……。

さすがというか何というか。



薫の脅しに負け、しぶしぶ昨日のことを話す。




「……ま〜た白薔薇の子、ねぇ?」




含みのある言い方。

はい、また津上さんです。




「まったく……。キユーはお人好しすぎるんだよ」


「別にそんなんじゃ……」


「あるの! 大ありなの!」




お人好し……だろうか。


だってほっとけなかったんだ。

逃げたいって、俺も思うから。


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