負け犬の傷に、キス



「……何」



よっぽど間抜けな顔をしていたのか、薫が訝しそうに睨んでくる。




「てっきりあきらめるよう勧めてくると思ってた」


「なんでよ」


「前に津上さんに忠告してただろ?」




バカだとか、また狙われるだとか。

言葉はとんがってたけど、薫なりに守ろうとしてた。


もうその守り方はやめたのだろうか。




「あきらめてくれるなら、そっちのほうがいいんだけどね」




あ、やめてなかったみたい。


睨みがきつくなった。

うっ……。グサグサ刺さって痛いデス。




「キユーとはそれなりに関わっちゃって、多少なりともうわさは広がってる。また絡まれてもおかしくない」




うわさって、ほんとに厄介だ。


昨日津上さんも悩んでいたっけ。

白薔薇でもそういううわさが流れてるんだよな。


俺たちは慣れてるけど、津上さんは振り回されてしまってる。


そりゃ逃げたくもなるよな。




「お人好しの総長さまが、それを放置できるわけもないしぃ~?」


「は、はい……すみません……」




これは責められてる? 怒られてる?

うなだれれば、またため息がこぼされた。




「それに恋愛まで絡んでちゃどうしようもないでしょ。ここで、

『“負け犬”の好きな子なんて敵からしたら弱点なので狙ってくださーい!って教えてるようなもんだから、できる限り関わるな。あきらめろ』

って、ド正論かましてもムダだってわかってるからね。どうせキユーはあの子を守っちゃうんだから。ならもう応援してあげるしか選択肢なくない?」



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