負け犬の傷に、キス
ひと息ついた薫は、細い指で牛乳パックを自分のほうに寄せた。
しゃべりすぎた喉を潤すと、指が離れ、代わりに呆れたような視線に捕まる。
「消去法だったんだ……」
「そーゆーこと。キユーが心からあの子を信頼してるみたいだから、応援してあげてもいいかなって」
「それで当たって砕けろと」
「そう言わないと、告白するって考えすら浮かばないでしょ?」
ひ、否定できない……。
たしかに告白なんてまだ遠い先のことだと……。
「で、でも……は、早くない?」
「早くない。悩んでる間に双雷をよく思ってないヤツにあの子が引っかかってたらどうすんの。あの子、見た目はいいからね。引く手あまたなんじゃないの? とられていいわけ?」
「よ、よくない!」
「でしょ? だからさっさと告れ」
「うん!」
…………ハッ!
勢いで頷いちゃった!!
薫はニヤリとしたり顔になる。
どうしよう。本当に砕けたら……俺のメンタル大丈夫かな。
「……まあ、結果は明らかだけどね」
焦り出す俺を横目に、薫は口の端についたパンくずをペロリとなめ、静かに肩を落とした。
チャイムが鳴った。
告白のことで頭がいっぱいで午後の授業に集中できないかも。
「そういえば古着屋はどんなだった?」
「なんかおしゃれだったよ」
「語彙力」
「店員さんもいい人で全身コーディネートしてくれたんだ」
「え、ずるい。そのコーデ今度着て来てよ」
「いいよ、着てく」
「あーあ、いいな~。夏服ほしい」
中庭から校舎に入ってすぐのところにあるゴミ箱に、ぺちゃんこにつぶした牛乳パックを投げ捨てた。