負け犬の傷に、キス
*
赤、黄、白、桃、紫……。
夕方の日差しを浴びて、花びらが透けて見える。
「花……ってことは、今日は家の用事あるのか」
「そー。ったく、めんどいったらないわ」
下校中に立ち寄った花屋。
ここに用がある薫は、じっくり花を観察している。
「生ける花はウチにあるってのに、なんで今日の気分の花を持っていかなきゃなんないの。そういう宿題はいらないっての」
「苦労してるのな」
「そりゃあもう」
ときおり薫は、雅家で習いごとのようなお稽古をしなければいけないらしい。
後継者に必要な知識や技能を身につけるためだとかなんとか。
本来は毎日あるのだけれど、薫は面倒くさがって口うるさい先生のときだけ参加してる。
そのお稽古が、今日は生け花のようだ。
先月は書道だった。
「柏はそういう用事ないよな」
「まあね。ビーヤンは違うし」
「そっか」
跡取りって大変だな。
常識とか生き方とかが根本的に違いそう。
薫は選びに選んでアサガオに決めた。
種類の次はどの花にするか迷ってる。
大きく開いた花びらに、ぽつぽつと水滴が浮かぶ。
青と紫が混ざったような淡い色。
奥にいくにつれて白色に溶け込んでる。