負け犬の傷に、キス






赤、黄、白、桃、紫……。

夕方の日差しを浴びて、花びらが透けて見える。




「花……ってことは、今日は家の用事あるのか」


「そー。ったく、めんどいったらないわ」




下校中に立ち寄った花屋。

ここに用がある薫は、じっくり花を観察している。




「生ける花はウチにあるってのに、なんで今日の気分の花を持っていかなきゃなんないの。そういう宿題はいらないっての」


「苦労してるのな」


「そりゃあもう」




ときおり薫は、雅家で習いごとのようなお稽古をしなければいけないらしい。


後継者に必要な知識や技能を身につけるためだとかなんとか。


本来は毎日あるのだけれど、薫は面倒くさがって口うるさい先生のときだけ参加してる。



そのお稽古が、今日は生け花のようだ。

先月は書道だった。




「柏はそういう用事ないよな」


「まあね。ビーヤンは違うし」


「そっか」




跡取りって大変だな。

常識とか生き方とかが根本的に違いそう。



薫は選びに選んでアサガオに決めた。

種類の次はどの花にするか迷ってる。



大きく開いた花びらに、ぽつぽつと水滴が浮かぶ。


青と紫が混ざったような淡い色。

奥にいくにつれて白色に溶け込んでる。


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