負け犬の傷に、キス
それって……どういう意味、なんだろう。
拭っても拭っても涙が止まらない津上さんと、行き場のないバラに、またジロジロと通行人が気にし始める。
役に立たなかった空いてるほうの手で、津上さんの背中を優しくさすった。
「あっちでちょっと話さない?」
ここじゃ人目がありすぎる。
ふたりきりで話そうよ。
全部、聞く。
聞かせてほしいから。
津上さんは黙って頷いた。
ゆっくり細い道に移動し、草花で飾られたかわいらしい外装の建物に背をつける。
横に並んでしばらく沈黙が続いた。
「……っ、ごめんね、」
鼻をすする音が聞こえなくなると、ポツリとソプラノが漏れた。
ピンク色の小花柄のハンカチは湿っていた。
「謝らないで?」
「っ……」
「……さっきの、どういう意味か、聞いてもいい?」
いやに歯切れ悪くなってしまった。
俺……けっこう動揺してるのかも。
「じ、実は……昨日サボったことが親にバレて叱られたの。この右頬がそのなごり」
「なごり、って……」
もしかして叩かれて……?
なのに「大丈夫」って笑ってはぐらかしたんだ。
……大丈夫じゃないじゃんか。