【BL】近くて遠い、遠くて近い。
「いらっしゃいませー!」
バイト先である居酒屋レストランは、
大学近辺ということもあってか今日も繁盛している。
昼間は落ち着いたクラシックな雰囲気の店なのに、夜になると一層賑やかになるのが面白いところだ。
厨房の奥でフライパン握ってる
優しい中年の人が梶谷店長。
オレの家の事情を知ってる唯一の人だ。
「ヒイロ!これ28番テーブル!」
「はい!」
高校の時、
飲食店で勤めるのにはかなりの抵抗があったが、
根暗で人見知りな性格を治すためには接客業。
そう思い立ってからの行動は早く、
生きるため、そして学ぶために
できる限りの時間をバイトへ費やしてきた。
料理は自炊の勉強にもなるし、
接客はコミュニケーション力が身につく。
覚えることが多くても、
オレにとっては有難いことばかりだ。
「31番テーブルさんお会計です!レジ入ります!」
「「ありがとうございまーす!!」」
この店では、
スタッフの"明るさ"が売りとなっている。
活発で陽気な人達が集まり、
スタッフ同士の仲もとても良い。
少し引き気味なオレでも、
最近シフトに多く入るようになってから
だんだん馴染めるようになってきた。
「そろそろ落ち着くな。
ヒイロ、遅くなってすまん!もうあがってええで!」
「はい、ありがとうございます!」
深夜0時手前。
ようやく帰り支度を終えたオレに
梶谷店長が声をかけてきた。
「お前、最近勉強どうなん」
「どう?って??」
「やれとんか、ちゃんと」
「頭良い友達がおるんで、一緒に頑張ってます!」
「ほうか、
ここんところよう働くから俺心配しとったんや」
「そんな…、最近は勉強もバイトも楽しいんで
結構毎日充実してるんですよ」
「そら嬉しいなあ、でも無理はしたアカンで」
「ありがとうございます!
じゃあ、お先に失礼します」
「おう!おつかれさん!」
店長の大きな優しさがあるから頑張れる。
ここなら長く続きそうやし、
時給も少しづつ上がっている。
このまま頑張れば、
きっと理想の自分、理想の生活に近づける。
必死で頑張ればいつか報われるはず。
そんな気がして、
とにかくがむしゃらに動きまくった。