私の世界は君が教えてくれたのに
どれくらい変わっただろう。
待ち合わせ場所に向かう途中、君とよく通ったカフェの窓に映る。
君が似合うと言ってくれた花柄のワンピースにベージュのパンプス。
君がかわいいと笑ってくれたシルバーのピアス。
君が買ってくれたローズピンクの口紅。
君とお揃いのイヤホンで君がよく口ずさむ洋楽を聴く。
君と出会わなければ、今の私はいない。
全部いつだって手に入れられた物なのに、君と出会うまでそんなことすら思い付かなかった。
今の私の世界は、君が教えてくれた。
別にそれまでもつまらない人生だった訳じゃないけれど、君と出会って世界が広がった。
人を好きになるとこんなに嬉しくて幸せだと教えてくれた。
駅に向かう下り坂、途中にある中学校を見ていつも妄想する。
中学時代に君と出会っていたらどんな毎日を送っていたかな。
君が紺色ソックスが可愛いと言えばドキドキしながら履いて行くのかな。
うっすらと化粧をしては悩んで落とすのかな。
でも、頭の固かった私はきっと君の良さに気付かなかったかも知れない。
あの頃の無邪気な正義感で、白いソックスも可愛いと言えたのかな。
君も、今の君ではなかったのかな。
何か始めたいと思って通った自動車教習所に君はいた。
覚えの悪い私にいつも笑って教えてくれた。
可愛いと思われたくて、花柄のワンピースにベージュのパンプスを履いて……、イヤリングはゴールドだった気がする。
あの時、君は可愛いと言ってくれたけど、それは嘘ではないでしょう。
アクセルもブレーキも君が教えてくれたのに、どこかにたどり着くでもなく走り続けていた気がする。
私たち、どこかにたどり着いた?
君がいいと思うと指差したトートバッグを右肘にかけて歩く。
肩にかけるよりそっちの方がオシャレなんだって。
そう笑っていたなぁ。
少し挙げた右手はどうしているのが自然なのか聞けばよかった。
私はいつも握りしめてしまうから。
花柄のワンピースもいいけど、ユニセックスの服でちょっとお揃いにするのもいいよね。
そう言われた時のことを思い出す。
お揃いという響きが嬉しくて、君の好みに合わせてるなんてつもりもなかった。
ただ、君と同じ世界にいたかった。
駅の階段をゆっくり落ち着いて下りる。
弾むように下りたら、君がもう大人なんだからゆっくり地に足つけて歩きなよと言った。
電車に乗り遅れるのも嬉しくて弾んで歩いてしまうのも、私の注意が足りないからだと思っていた。
どこか非難や自嘲を含んだ口調で思い出してしまうことが多くなって、いつか君に会うことが怖くなった。
君に会わないと自分がどこにいるか分からなくて不安なのに、君に会うと私ってどこにいるのだろうと思うようになっていた。
きっと君も、同じだったね。
君好みになっていく私を嬉しそうに不安そうに見ていたのに、もういいよとは言わなかった。
何も私たちの間に嘘はなかったはずだった。
君のおかげで私の世界はどこまでも広がった。
アクセルを踏めばどこへだって行ける。
一人でどこでも行けるようにしてくれたのは君に違いない。
でも、たまには電車で移動したり花柄のワンピースを着たりしたかった。
そう言えばよかったのに、言えなかった。
君のおかげで広がった世界は私を侵食して、結局奥底は変わってなかった。
でも、それくらい、君が好きだった。
待ち合わせ場所に君の姿が見える。
ちゃんと笑顔で言えるかな。
月並みの言葉だけど、昔の私ならなあなあにしてしまったかも知れない。
でも、君が私を強くしてくれたから。
新しい色をくれたから。
私は一瞬立ち止まる。
今溢れくる涙を拭いたら、君のもとへ歩き出す。
そして、また一人歩くんだ。
君に出会えてよかった。
ありがとう。さようなら。
君が、私の世界を作ってくれました。
終わり
待ち合わせ場所に向かう途中、君とよく通ったカフェの窓に映る。
君が似合うと言ってくれた花柄のワンピースにベージュのパンプス。
君がかわいいと笑ってくれたシルバーのピアス。
君が買ってくれたローズピンクの口紅。
君とお揃いのイヤホンで君がよく口ずさむ洋楽を聴く。
君と出会わなければ、今の私はいない。
全部いつだって手に入れられた物なのに、君と出会うまでそんなことすら思い付かなかった。
今の私の世界は、君が教えてくれた。
別にそれまでもつまらない人生だった訳じゃないけれど、君と出会って世界が広がった。
人を好きになるとこんなに嬉しくて幸せだと教えてくれた。
駅に向かう下り坂、途中にある中学校を見ていつも妄想する。
中学時代に君と出会っていたらどんな毎日を送っていたかな。
君が紺色ソックスが可愛いと言えばドキドキしながら履いて行くのかな。
うっすらと化粧をしては悩んで落とすのかな。
でも、頭の固かった私はきっと君の良さに気付かなかったかも知れない。
あの頃の無邪気な正義感で、白いソックスも可愛いと言えたのかな。
君も、今の君ではなかったのかな。
何か始めたいと思って通った自動車教習所に君はいた。
覚えの悪い私にいつも笑って教えてくれた。
可愛いと思われたくて、花柄のワンピースにベージュのパンプスを履いて……、イヤリングはゴールドだった気がする。
あの時、君は可愛いと言ってくれたけど、それは嘘ではないでしょう。
アクセルもブレーキも君が教えてくれたのに、どこかにたどり着くでもなく走り続けていた気がする。
私たち、どこかにたどり着いた?
君がいいと思うと指差したトートバッグを右肘にかけて歩く。
肩にかけるよりそっちの方がオシャレなんだって。
そう笑っていたなぁ。
少し挙げた右手はどうしているのが自然なのか聞けばよかった。
私はいつも握りしめてしまうから。
花柄のワンピースもいいけど、ユニセックスの服でちょっとお揃いにするのもいいよね。
そう言われた時のことを思い出す。
お揃いという響きが嬉しくて、君の好みに合わせてるなんてつもりもなかった。
ただ、君と同じ世界にいたかった。
駅の階段をゆっくり落ち着いて下りる。
弾むように下りたら、君がもう大人なんだからゆっくり地に足つけて歩きなよと言った。
電車に乗り遅れるのも嬉しくて弾んで歩いてしまうのも、私の注意が足りないからだと思っていた。
どこか非難や自嘲を含んだ口調で思い出してしまうことが多くなって、いつか君に会うことが怖くなった。
君に会わないと自分がどこにいるか分からなくて不安なのに、君に会うと私ってどこにいるのだろうと思うようになっていた。
きっと君も、同じだったね。
君好みになっていく私を嬉しそうに不安そうに見ていたのに、もういいよとは言わなかった。
何も私たちの間に嘘はなかったはずだった。
君のおかげで私の世界はどこまでも広がった。
アクセルを踏めばどこへだって行ける。
一人でどこでも行けるようにしてくれたのは君に違いない。
でも、たまには電車で移動したり花柄のワンピースを着たりしたかった。
そう言えばよかったのに、言えなかった。
君のおかげで広がった世界は私を侵食して、結局奥底は変わってなかった。
でも、それくらい、君が好きだった。
待ち合わせ場所に君の姿が見える。
ちゃんと笑顔で言えるかな。
月並みの言葉だけど、昔の私ならなあなあにしてしまったかも知れない。
でも、君が私を強くしてくれたから。
新しい色をくれたから。
私は一瞬立ち止まる。
今溢れくる涙を拭いたら、君のもとへ歩き出す。
そして、また一人歩くんだ。
君に出会えてよかった。
ありがとう。さようなら。
君が、私の世界を作ってくれました。
終わり