彼はリケジョな私のお世話係
特にイレギュラーなことも起きずに一日を過ごし、午後16時15分。

午後から社内での会議に行っていた夏目さんが帰ってきた。会議自体はそんなに珍しい物ではないはずなのに、夏目さんの顔は険しい。


「夏目さん、顔怖い」

「中川…おまえ敬語使えないしな…」

「失礼な。敬語くらい使えます」

帰ってきた途端何よ。
言葉数も少ないし、滅多に敬語も使わないけれど使えないわけではない。形だけとはいえ一応やった、入社面接もちゃんと敬語で話しました。


「…不安しかない」

「何かあったんですか、夏目さん」

浅見くんの質問に、夏目さんの顔はさらに険しくなった。


「実はさっきの会議で来週、九条財閥の御曹司が来ると決まった。各研究室を覗くから軽くどんなことをしているか説明しなくちゃならない。だがしかし、御曹司が来る日は俺と浅見は出張だ」

「そんな!大問題じゃないですか、中川さんにできっこない」

浅見くんが真っ青になっている。おい、何勝手に大問題にしてくれてるんだコラ。
確かに人付き合いは悪いけど、それくらいできるし。


「それくらいできる」

「本当か?中川。大丈夫なのか?」

娘が初めてお使いに行くレベルで心配されているのが気にくわない。
だってここの研究室でやることは少ない。説明もすぐ終わるでしょ。

「大丈夫、任せて」


そうして二人に心配されながらも私は御曹司の案内役に決まった。


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