彼はリケジョな私のお世話係
「中川さん、うまくいったと言ったじゃないですか」

「うまくいったはずだった」


これの何処がうまくいったのか、先週の私を問い詰めたい。
先週九条財閥の御曹司、九条課長に研究室を案内したあと私はひたすら大好きな研究に没頭していた。
面倒な仕事は浅見くんと夏目室長に丸投げし、やりたいことだけをやりたいだけしていた。
もちろん泊まり込みも再開。九条課長が来たのは先週の月曜日。その日から1週間ほぼ徹夜してる。ほんの少しだけ仮眠はとったけれど。


三日も経てば「九条課長」なんて人物のことさえすっかり忘れていた。
それなのに週明けの今日17時27分、その九条課長が突然第一研究室に来たのだ。

小声で夏目室長と話したあと、二人は第一研究室を出て行った。
つまり浅見くんと私だけ置いてけぼりだ。


「なんであの人来たの」

「それはこっちのセリフですよ、中川さん。九条課長なんて我々とは普段接点がないんです。何かあるとするなら先週のことです」

特に急ぎの仕事もないため、休憩がてら浅見くんと緊急会議。
私と違って気の利く後輩君は、コーヒーをいれてきてくれた。

「なにかやらかしたんじゃないですか?」

「…強いて言えば泊まり込みのこと?」

それ以外思いつかない。

「なんですか、それ」

いやな予感しかしない、そんな風にいいたげな目線をよこす浅見くんにあの日の会話を教える。いつもなら研究に関係ない会話は全てすぐに忘れてしまうけれど、あれは久しぶりに焦ったせいかすぐに思い出せた。


「…馬鹿なんですか、中川さん」

「馬鹿じゃない」

「馬鹿でしょ!?そりゃあ三日連続で泊まり込みするときもあるでしょうよ。でも毎週なわけないでしょう!週三日って、中川さんからしたら少ないかもしれませんけど常識的に多過ぎです」

いつも冷静な浅見くんが熱くなっている。そんなに週三日は多いのか。毎日泊まり込んでいる私には分からないことだ。

「夏目室長、それで怒られてるかな」

「どうでしょうね。その可能性は高そうです」

口を開けばお小言ばっかり。口の悪い夏目室長だけど、拾ってもらったことは本当に感謝してる。だって私がまともに就職活動して、普通に就職できる訳がなかった。コネ入社は周りからいい目で見られないけど、働き口が見つかったことは安心している。だから私のせいで降格とか減給になったらやだな。
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