彼はリケジョな私のお世話係
「ただいま」

17時50分。ようやく夏目室長が帰ってきた。なぜか九条課長もいる。

「…夏目室長」

夏目室長が処分されたりしていないか少し不安になって、様子を見てみるけれどそんな風には見えない。
むしろずっと滞っていた研究で結果が出たときのように晴れやかな顔だ。肩の荷が下りた感じ。


「中川。俺はお前が大学生の頃から気にかけていた。お前の研究に対する熱意や探究心は素晴らしい。それにその頭脳も希有なものだ。だがな、あまりにも生活能力がない。一人暮らしをさせることさえ不安だった。だが、いざ就職すればお前は家にも帰らず毎日研究研究研究…!研究が悪いわけじゃねえ。だが飲まず食わずで睡眠を取らないのはだめだ。近いうちに死んじまう。ずっといってきただろ?なのにお前は聞きやしない。だから荒治療をすることにした」

「…荒治療?」

「そうだ、今日からお前には九条課長と一緒に住んでもらう」

「…はあ?」

なんで私の生活習慣を矯正するのに九条課長と同居する必要があるの?

横を見ると浅見くんも唖然としている。だよね、私の感覚がおかしいんじゃないよね。夏目室長と九条課長がおかしいんだよね。

「とりあえずそういうことだから。九条課長の言うことをちゃんときくんだぞ」

「なんでなの!?意味わかんない。とりあえず毎日ちゃんと帰れば良いんでしょ?帰るから同居はなし!」

知らない人と同居するなんてごめんだ。研究の時間が減るのもいやだけど、数回しか会ったことのない人と同居するくらいなら我慢する。

「そういうわけにはいかない。さあ帰るよ、美月」

ニッコリと爽やかに微笑む九条課長。いや、私はそんな笑みでだまされないから。なにが“帰るよ“よ!!この前一回会っただけの女と同居決めるとかこの男普通じゃない。しかもさらっと名前を呼び捨てにしないで欲しい。
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