咎人と黒猫へ捧ぐバラード
記憶
現在ヒューマノイドは至極当然のように存在するが、それには等級がある。
大きく四段階に分かれており上からアルキメットタイプ(UT)スーパータイプ(ST)グレートタイプ(GT)、エクセレントタイプ(ET)だが、段階にできない最上級ランクの物が存在する。

渕脇が科学者として開発に関わったそれが、アルキメットタイプの上をいく最上位最高級のアルキメット・レアタイプ(URT)だ。

世界的にもアルキメットレアタイプは生産数が少ない。

というのも開発に金がかかりすぎるので他企業は積極的に関わらないのだ。
しかしそこが重要であると、渕脇は開発を推している。
社内の改革を行ったものの父親の商品の売り処は、そこにあったからだ。
顧客は逃してはならない。

「相手がヒューマノイドという証拠はあるのか?」
「え?……あ、いえ、しかし」
「ヒューマノイドと、決めつけているようだな。もう一度調べてこい」

秘書は一礼すると慌てて社長室から出て行く。
そ脇はシャツのポケットから電子タバコを取りだし、口にくわえる。
とたんに室内の空気清浄機が作動し始めた。

「茂澄臣吾(もずみ しんご)か」

渕脇忠行には二歳違いの妹がひとりいるのだが、彼女の夫、つまり渕脇忠行から見れば義理の弟になる茂澄臣吾(もずみ しんご)である。
年齢は四十八才。
彼は茂澄財閥のひとり息子で、経営不振に陥ったのち買収された企業のひとつだ。
こちらは忠行が関わってはいない。
父親の代でバーナ重工業の傘下になっている。

バーナ重工業が高級ヒューマノイドを売りにしていたが、茂澄の企業は一般向けのエクセレントレアタイプのヒューマノイドを開発、販売していた。

買収されたとはいえ、彼の父親と渕脇の父親の関係は仕事でもプライベートでも友好的なものであった。
家族関係も良好であり、次期会長と社長の座は臣吾が引き継ぐだろうと云われていた。

しかし現実には忠行が会社を継ぎ、臣吾に忠誠を誓っていた社員は困惑し、忠行につく者と臣吾につく者で分断している状態だ。

バーナ重工業の開発したヒューマノイドは社長として科学者として、忠行自身が大きく関わっている。
それが流出したとなれば、忠行の進退に関わる。
しかし彼は、それだけではないように思うのだ。

「志鳥。おまえが絡んでいるのか。まったく……」

渕脇は過去を思い出す。

天才科学者、志鳥。
今は消息不明だ。
一緒にヒューマノイドを研究した仲間だったがヒューマノイド暴走事件以来、姿を消した男だ。

「行方不明だった、あいつが見つかるのか」

渕脇は胸の中で呟いた。


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