咎人と黒猫へ捧ぐバラード
「誰!?」
真吏は息を呑み、叫んだ。
真吏を襲った正体不明の人物は答えることなく無言で暗い街灯の下を潜り、彼女の正面に立ちふさがる。
細身で丸みのある曲線、乳房の形からして女性のようだ。
頭から爪先に至るまで蒼い光沢のあるスーツで全身を覆っており、顔は見えない。
身長は真吏と同じくらいのようだが彼女より背が高いのは、二十センチヒールを履いているからだろう。
履き物は動きに関係せず妨げない、という意思表示でもある。
真吏を待ち構えていたことは明白だった。
飛び道具で仕留めるはずだった人間が避けたため、姿を現したようだ。
月明かりと街灯の下、右腕には刀が冷たく鋭い光を放っている。
それは日本刀のようでそれではなく、忍刀という、かつて忍者が使用していたという武器なのだが、今の真吏にはどうでも良い知識だ。
人を襲っているのに感情をまるで感じない。
それどころか息切れのようなものも声すらもない、機械のような女だ。
その特徴を兼ね揃えた生命体を真吏は知っている。
「……ヒューマノイド!」
絶望感と恐怖と悲しみ、そして怒りの感情を鞄と共に抱き抱え身を縮こませる。
先ほどは生物的防衛本能をフル稼働させ奇跡的にかわしたが、二度は難しい。
女は音もなく走り寄ると躊躇なくそれを頭上から振り下ろした。
風が唸り声を上げる。