咎人と黒猫へ捧ぐバラード
事件
真吏は目を覚ました。
硬く冷たい床の感触を頬に感じる。
「!!」
身を起こそうとしたが腕が後ろ手に束縛されており、口枷で口元を塞がれている為に声を発する事は出来ない。
親指の付け根が束縛具で繋がっている感覚がある。
体には樹脂製のヒューマノイドを束縛時に使用する、細さ0.5ミリ幅の拘束具で動けないようにしてある。
おそらく同様の素材の指錠がされているに違いない。
これは軍にも使用されている束縛具で一度使用すると、切断しない限り絶対に外れない。
そして身動きすればするほど食い込み痛みを伴う。
そしてこれは痛感を鈍くしているヒューマノイド専用の特別な代物だ。
人間の真吏にはどうすることも出来ない。
「有秀君」
寝転された態勢のまま横に顔を動かすと、同じく束縛具で拘束された状態の少年が眠っていた。
少年に危害を加えられていない事に安堵した後、少年を巻き添えにしてしまった事に責任を感じる。
何としても、ここから脱出しなければならない。
そして、あのやる気のなさそうな青年にビンタのひとかでも食らわせてやらなければ、気が収まらない。
真吏は深呼吸をすると、改めて周囲に目を向ける。
ガラス製の円筒が並んでおり、そこに様々なヒューマノイドが入っているのが見えた。
ここはヒューマノイドの工場の中であり、その中の厳重で重厚な扉といい、培養室であるようだ。
ひとつひとつの培養タンクが大きいため、競技場一つ分の広さはある。
というのも小学生の頃の社会科見学で、ここでは無いが同じ設備と扉を見たことがあったからだ。
「ということは……」
真吏が息を呑んだとき、薄暗い室内で重たいスライド音が響き人間の足音が複数聞こえた。
こちらに近づき止まる。
「お目覚めかね。お嬢さん」
中年の男が転がった真吏を見下ろしていた。
他にもう一人の男、そして表情はない無機質のヒューマノイド二体だ。
この二体が真吏と有秀を拐ったのだろう。
警備ヒューマノイドではなく、腕に旭日旗とポリスのアルファベットが記してあった。
そのうちの一体が近づき真吏の口枷を外す。