咎人と黒猫へ捧ぐバラード

自分は終わってしまうのか。
こんなところで……!
鞄を握る手や全身が強ばる。
死の覚悟を決めた、その時だ。

「……?」

あの刀で両断されると思っていたが、何もない。
時間だけが流れる。
それとも、もう自分は生きていないのか。
一瞬の時間のはずが永遠にも感じられる時間だった。
恐る恐る目を開くと、一人の人物が真吏の前に立ちふさがっていた。
長身だ。
女よりも背が高く、躯つききからして男のようである。
刀を持つ手首を掴んでいた。

「!」

捕まれた相手は振りほどこうともがいたが、固定されたように動かない。
振りほどく事を諦めたヒューマノイドは、反対側の腕を繰り出そうとする。

すると男は手首を掴んだまま自分の方へ引き寄せた。
掴んでいない反対の(てのひら)を突き出し暴漢者の胸に、勢いよく打ち込む。

掌底(しょうてい)を食らった胸に椀のような窪みができたが、倒れずに踏み止まる。

しかし反撃を受けたせいか一瞬、ヒューマノイドの動きが止まった。
男は間髪入れず、今度は膝蹴りをヒューマノイドの脇腹に食い込ませる。

「!!」

肘から先が千切れ、衝撃で女は三メートル向こうの壁に叩きつけられた。
どれほどその人物が鍛えているのかは不明だが、膝蹴程度でそれをぶっ飛ばす事が可能だろうか。

しかも相手は人間ではなく体を強化した細胞を持つ人工生物だ。
にもかかわらす骨格も強化されたヒューマノイドの腕を引きちぎっている。

思うまもなく飛ばされた女の方も直ぐに立ち上がり、動き出した。
痛覚を除去されているヒューマノイドは、痛がるという事がない。

(この動きは……)

真吏が息を飲み様子を見つめる。
驚いたこともあるが、男の体術というか、その動きが彼女の父親の影と重なったように見えたからだ。
この男を見た今、なぜそんなことを思い出したのが不思議だった。
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