咎人と黒猫へ捧ぐバラード
病院
真吏が癒しを求め、ウィンドショッピングをしていた日曜日である。
家電コーナーのテレビではニュースが流れていた。
『……続けて、いわゆる「はぐれヒューマノイド」の目撃情報です。女型ヒューマノイドが徘徊しているとの情報が寄せられました。近づいたり、むやみに捕獲したりしないよう警察からも呼びかけています』
次にふと目を向けたペットコーナーで長身の青年を見つけた。
「あ」
あの護衛用の黒い装備ではなく、ラフな私服姿だ。
全くの偶然である。
また、あの若者に会うとは思わなかった。
足元に置いてあるレジかごにいっぱいに、餌やおやつ猫砂などが入っている。
今は真剣な眼差しで玩具を手に取り吟味しているようだ。
レジかご反対側の足元には猫用ゲージが置いてある。
真吏は小さく笑うと近づく。
「鷹人君」
「高竹真吏」
青年が真吏を見下ろす。
相変わらずの無表情、無感情な男である。
真吏は呆れ顔だ。
「フルネームで呼ばないで。真吏でいいわよ」
鷹人は頷く。
「では真吏。今日はどうした」
さん付けじゃないんだ、と真吏は心の中で呟く。
自分は歳上だし注意しても良かったが、そうはしたくなかった。
真吏はつい先ほどまで気分を害していた。
昨夜の出来事だが、彼女は食事に誘われたのだ。
取材で知り合った建設業の社長をしている歳上の男で、損ではない付き合いであったので無下にはしていなかった。
だが、その程度だ。
真吏の職場に連絡があり上司命令と渋々ひ引き受けたのだが、上司が更に神経を逆撫でする余計な一言を残したのだ。
「君なら暇だと思ってね」
恋人もいない独身だから時間をもて余しているだろう?
と、音声にしない言葉が聴こえた。
いつかハラスメントで訴えてやるとは思いながらも、仕事だからと待ち合わせ場所で苛立ちながら待っていると。
その社長は高級外車で真吏を迎えに来た。
既にマリは予感を感じていたが、あくまで仕事の付き合いと自分に言い聞かせた。
が、彼女の悪い予想は的中してしまった。
ホテルに予約をいれてある、と告げられたからだ。
真吏は当然、拒否した。