咎人と黒猫へ捧ぐバラード
「よく出来た人形だ」
真吏の思いなど知らない男は呟く。
戦闘後とは思えないほど冷静で落ち着いている。
「おまえの所有者を、教えてもらおうか」
千切れた腕を道路へ放り投げると壁に叩きつけられたまま動かない暴漢へ歩み寄る。
男の手が暴漢の頭部に触れた。
まるで何かの信号を受け取った機械のような反応である。
しかし。
異常を素早く感じとった男は瞬時に真生をコートの中へ抱き込み、後ろに跳躍する。
音もなく五メートルは飛んだ。
驚くべき身体能力だ。
まるで羽毛のような軽やかさである。
そして男がアスファルトに着地した瞬間。
ヒューマノイドの躯に十字に亀裂が走り白い閃光を放ち、爆発した。
男は自分を盾に爆発と部品の武器から自分と真吏の身を守る。
「証拠隠滅か」
男は煙を上げ木っ端微塵に砕けた残骸を見つめ、何の感情もないような口調だった。
黒い手袋を着けている。
「高竹真吏。二十七歳。職業はジャーナリスト」
真吏を見下ろし黒ずくめの男は言った。
黒髪で整った目鼻立ちの端正な顔立ちの日本人の男であるが、やや血色が悪い。
年齢は二十代前半くらい。
高身長の真生だが、この男はそれを十センチ以上は上回る長身である。
色白で優男に見える美形なのだが、先ほど男をぶっ飛ばした人物と同一かと疑うほど物静かな印象であった。
バランスの取れた躯を黒いブルゾン、ズボン、靴で覆い、手袋も全て黒一色で統一している。
全身、黒で固めるなんてセンスがない、といつもなら針を刺す所だが、この男は全く違和感なかった。
むしろ黒を纏う事が自然の事のように思える。
何事も見透かすような黒い瞳が真吏を射抜くように見つめ、柄にもなくその瞳に真吏は怯んだ。
「あなたは」
動揺する心を隠し真吏は不審と警戒の目を向けた。
危機を救った恩人であるが真吏は初対面である。
動揺を隠そうとした事もあったが男が自分と全く面識がないのに、今の今で警戒する事は当然であった。
男の方は、そんな真吏の反応を気にしてはいないようだ。
見つめながら再び口を開く。
「アキラル。あなたが雇った護衛屋だ」