咎人と黒猫へ捧ぐバラード
しばらくして遊び疲れた黒猫は餌を食べ、欠伸をして身体を伸ばす。
胡座をかいた青年の脚の間に入ると、丸まって眠ってしまった。
「店を継ぎたい。その際には、保護猫中心の猫カフェにしたい」
鷹人は今まで、漠然と裏稼業と店の手伝いをしてきた。
今回、黒猫を保護したことで目標が出来たらしい。
「鷹人君が猫カフェねえ」
猫だけではなく鷹人目当ての女子も増え、繁盛するかもしれない。
「夢が叶うといいね。その際にはオススメ記事、書いてあげる」
「そうなるように努力する」
生真面目に青年が答える。
真吏は前々から思っていた疑問を口にした。
「どうして危険な護衛業なんてしているの?マスターの手伝いで、じゅうぶんじゃない」
無愛想な若者だが見た目はいいし、働き者の鷹人ならばやっていけると思うのだが……。
「あなたは、おれが普通に見えるのか」
青年の黒い瞳に見つめられて、真吏は返答に窮した。
どんなに強力なヒューマノイドも倒せてしまう。
運動神経も並外れている。
そうである理由がある。
鷹人は黒猫をなでた。
完全には眠っていないのか、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「おれは事実上、死人だ」
「死人って」
真吏が彼を知ったのも口コミだ。
改めて調べようとしたが、ネット検索にも引っ掛からなかった。
制限をかけているのかと思っていたが違うらしい。
真吏は率直に、この若者に協力したいと思った。
「私も……」
「あなたは関係ない。余計なことはしないでくれ」
真吏の考えがわかったのか、鷹人が口を挟んだ。
「自分の事は、自分でなんとかする」
突き放したように鷹人が云った。
彼は自分が何者であるかは、わかっているようだ。
いつもの真吏なら激しく言い返す所だが、それを抑えた。
「……わかったわ。プライベートなこと、ずけずけとごめんなさい」
謎めいた青年を単に知りたい好奇心と、役に立ちたいと思った老婆心からだったが、配慮に欠けたと思った。
胡座の中ですやすやと眠る黒猫を、真吏はそっと撫でる。
すると眠ったまま身体と足をピンと伸ばし腹を見せて反応し、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「また、ここへ来てもいい?」
「ああ」
青年もそれ以上は何も云わず、時間は流れていった。