咎人と黒猫へ捧ぐバラード
動機
人工知能(AI)の技術が格段に上がり、なくてはならない物になった世界。
この時代には人間と地球上に元々存在していた生物の他に、人間が造り出した人間型人工生命体『ヒューマノイド』が存在する。
性別は男女と別れており、肉体的、精神的労働を緩和する為に開発されたものである。
高齢者人数が総人口の三分の一を締めるようになった日本では、それに反比例するように出生率が減少の一途を辿っていた。
医療費、税率の引き上げは日々の生活にすら困窮する若い世代に、さらに経済面で追い討ちをかける事態となり、自分すら生きにくい世の中で出生率など期待の持てる物ではなかった。
実際に数値は一向に上がらず、緩やかながらも右肩下がりの状態が続いている。
その状況の中で人間の擬似生命体が開発された事は画期的だった。
まさに救世主である。
クローンは胚から造られているが疑似生命体はその胚を人為的に変異させているため、同じ顔と体を持つクローンとは違う、オリジナルの生物を産み出す事に成功したのだ。
胚の状態時に細工をすれば肉体を強化し労働にも耐えうるし、芸術家のように成長させたければ、その様に細胞にDNAを与え培養する。
正に人間のやりたい放題であったが、ヒューマノイドはあくまでも労働力として製造されている。
彼等の脳には精神的、感情的な脳信号は制御チップでコントロールされており人間に危害を加えないよう抑え込まれ、製造業社情報、所有者情報、居場所を伝える情報も備え付けることが義務だ。
制御チップの大きさは小指の先程の小さな物だが、人間が擬似生命体達を完全に管理する為には必要不可欠な物だった。
人間は自分たちと全く同じ容姿を持つ奴隷を造り、手に入れたのである。
一方で人間は子孫を増やすという本能を確実に衰退させていた。
堕胎の件数は減少しているものの、この擬似生命体が開発されてからは妊娠出産という自然な営みの行為が、明らかに減っている。
性的快楽目的でヒューマノイドを相手にすれば妊娠の心配はないため、人間同士である必要はない。
思う存分に楽しむことができる一つの要因になっているのかもしれない。
慰安目的の動物型の他、介護を補助する人間型が開発され、人間の労働力が必須だった介護用の他に工場現場用と警察と軍事と様々な目的のヒューマノイドが開発された。
中でも軍事目的のがヒューマノイドが注目を浴びたが、世界戦争で人類が滅びる可能性があり各国、厳重に管理している。
それは表面上のもので防衛目的の軍事産業は潤っているし、均衡が崩れないよう保っている状態だった。
しかし今から二十年前。
世界のヒューマノイド制御チップが破壊され、暴走する事件が起きる。
首謀者であり犯人は人工知能(AI)であった。
それ以降ヒューマノイドの管理はより厳格になった。
二十年経過した現在でも制御チップを失った『はぐれヒューマノイド』が出現することがある。
制御チップを搭載すれば法律違反ではないのだが各企業はイメージ崩落と反感を恐れ、ヒューマノイド開発事業は停留を余儀なくされていた。