咎人と黒猫へ捧ぐバラード
「あら。あのお兄ちゃんの連れじゃないの。志鳥さんとこの人外も」

巨体の女医、(はな)である。
両手に複数ののショッピングバッグを下げているところをみると、買い物帰りのようだ。

「お世話になっています。ドクター華」
「華先生、こんばんは。覚えていて下さって光栄です。お買い物ですか」

華は頷きショッピングバッグを持ち上げる。

「やっと買えたのよ。限定の幻食パン。長かったわ」

店名の入った紙袋を見て、真吏はあっと声をあげる。

「知ってます!行列のできるパン屋さんですよね。予約は無しの毎日数量限定だから、なかなか買えないんですよね~」
「ドクターは、大変な物をご入手されたのですね」

ふふっと鼻息を荒くし、眼鏡が煌めく。

「今日を休診日にしたのは、このためよ。朝から並んだわ」

このパンの為に数ヶ月前から診療日程を調整し、挑んだのだという。
恐るべき食に対する執念である。

「休診日にはしたけど急患は受付るわよ。今のところ、連絡ないから大丈夫みたいだけど」

病院には助手と受付の青年が二人で待機しているという。

「真面目な男らだからね。お土産を渡すわ」

彼等にも分ける予定である。
華が清白はを見上げる。

「ところで今日はお店は休みよね。あのお兄ちゃんが夕飯担当?」
「はい。鷹人特製、ビーフシチューが間もなく完成予定です」
「うはあ、美味しそう。お腹空いちゃうなあ」

会社帰りで空腹の真吏は涎が垂れそうになった。
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